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 ヒエログリフ解読
(古代文字へのご招待)
(11)カディシュの戦い(アブシンベル神殿)を読む
 今回から、新しい連載が始まります。題して「古代エジプトの戦い」です。古代エジプト人は多くの戦争を行い、その戦記を神殿の壁に残しています。
 今後数回にわたって、古代における戦記をお届けしたいと思います。有名なもので、なおかつエジプトに旅行した時に、実際にその碑文と出会えるようなものを選んでいただきました。ヒエログリフの勉強だけでなく、古代エジプトの歴史としても、また古代の文学としてもお楽しみいただけると思います。

 第1弾は、古代における戦闘でも一番有名な「カデシュの戦い」をアブシンベル神殿の壁画から紐解いていきます。 解読はいつものように、N氏にお願いをいたしました。

  
 まずは、実際の碑文を見られる場所のご紹介です。
 カイロから飛行機で約2時間と少し、アブシンベルにある、アブシンベル大神殿にあります。
 ほとんどのパックツアーで訪れる有名な観光地ですので、実際に行かれた方も多いと思います。
 
外から見ると、こんな感じです。
大きな岩山を削って巨大な4つの王像と
内部の部屋や柱を作っています。

カデシュの戦いの碑文があるのは、
列柱室に入ってすぐの右側、
隣の地図のBの位置になります。
 
 ラメセス2世はカデシュの戦いがお気に入りで、このアブシンベル大神殿の他にも、カルナック神殿や
ラムセウム、アビドスのラメセス2世神殿などの壁画やいくつかのパピルスにも
この闘いの記録を残しています。これから訳文をご案内するのは、
アブシンベル大神殿にあるカデシュの戦い45行中の11行分の解読になります。
 
 
 
 
下記の文章は、アブシンベル大神殿の碑文にはありませんが、ルクソールのカルナック神殿の
カデシュの戦いの記録に置いて、上のページの※のところに書かれている文書です。
この表現もとても劇的ですので、併せてご紹介いたします。



 ヒエログリフと一緒に訳文が書いてあると、つい文章の流れより、個々の単語に目が行きがちですので、ここで全文を改めて紹介します。(カルナックの分も入れて)カデシュの戦いの雰囲気を味わってください。

(前略)
 そこで、陛下の軍勢を急がせるために宰相に命令が下された。その時彼等(陛下の軍勢)は陛下と合流するために、シェブトンの南を行軍しているところであった。陛下が高官たちと言葉を交わしながら着座していた時、敵ヒッタイトは軍隊や戦車隊、さらにヒッタイトに味方する多くの外人達を引き連れてやって来て、彼等は浅瀬を渡っていた。そこで陛下のいる場所へと北上中の陛下の軍隊と戦車隊は、彼等の前で戦意を萎えさせてしまった。

 ヒッタイトのこれらの敵軍勢は、陛下のそばにいる陛下の従者たちを取り囲んだ。その時、陛下はその有様を見て、父、ワセトの主、メンチュ神のように彼等に対して激怒した。

 陛下は戦闘用の鎧を身に着け、陛下専用の甲冑をぐいと引き寄せた。その時、陛下はバール神の生まれかわりのようであった。彼は彼の馬に飛び乗った。彼はたった一人で素早い行動をとった。

<以下の部分はカルナック神殿より>
 陛下は、前代未聞の断固たる決意で、全領土を憤怒の炎に包んだ。陛下のひと吹きで、天地が燃え上がるほどであった。陛下の両眼は、彼等を見た時から怒り狂ったようになった。陛下は、彼等に対して炎のように燃え上ってジリジリしていた。陛下は異国人共をものともせず、さながら藁屑のように見下した。

<ここからアブシンベル大神殿に戻ります>
 彼は敵ヒッタイト並びにヒッタイトに味方する多数の諸外国の敵軍勢の中に突入した。その時、陛下はセト神さながらであった。陛下は敵軍勢の真っ只中にあって、唯一人で殺戮を行なった。陛下は彼等を次から次へとオロンテス川の波間に真っ逆さまに落下させた。

 余は全外国軍を攻撃した。余の軍隊と余の戦車隊が余を投げ出した(見捨てた)時、余は唯独りであった。外国軍の中で、唯の一人も起き上ったものはいなかったし、戻ってきたものもいなかった。
(後略)

 いかがでしたか、小説としてもなかなか素晴らしい出来だと思いませんか?
ラメセス自身が、書記に口述したのか、それとも小説の才能のある書記がいたのか、いずれにしても状況が目に浮かぶような名文だと思います。

内容に誤りがあった場合、その責は小柳に帰します。