エジプト
 
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 ヒエログリフ解読
(古代文字へのご招待)
(29)「死者の書」を読む (第125章)
 アニは心臓の計量で天秤が真理・真実を象徴するマアトの羽根と釣り合った結果、「アニの言葉は全て正しく真実である」と判定されたのであった。

 では、その「アニの言葉」とは如何なるものであったのか。それが記述されているのが「死者の書」第125章(下図)である。

 死者アニは、心臓計量の間へ入る前に、真理の間に於いて居並ぶ古代エジプトの州(ノモス)の守護神に対して、自分は罪を犯していないこと、つまり、自分が生前「~したことはありませんでした」という罪の否定告白を一語も間違いなく朗唱しなければならない。古代エジプトには州が42あったので、42の罪の否定告白をしなければならなかったのである。

 その手引書となったのがこの章であり、死者にとっては最も大切な章であった。
 
 吉村作治早大名誉教授の著作「古代エジプトの”人生”の遺産」191頁(青春出版社)に「罪の否定告白」の内容が要領よく説明されているので、その部分を引用させていただく・

「内容は犯罪に関するものが11、倫理や道徳に関するものが15、人情や情緒に関するものが16あり、全部で42の審判が行われるわけである。

 まず犯罪であるが、代表的なものとして「暴力」「盗み」「殺人」「荷抜き」「詐欺」「姦通」「脅迫」「復讐」が挙げられる。これらの行いを罪として古代エジプトでは厳しく対処したわけである。
 
 次いで、倫理、道徳について見ると、「罵る」「清潔さを汚す」「暦を破る」「男色」「他人を侮辱する」「飲み水を汚す」「私腹を肥やす」ことが禁じられている。また、人情や情緒面では、次のような態度をはっきりと戒めている。「不公平」「虚言」「偽善」「他人を仲違いさせる」「論争させる」「理由なく怒る」「怒りで我を忘れる」「闘争を扇動する」「他人を悲しませる」「軽率な判断をする」「話を大きくする」「居丈高な声を発する」「傲慢な振る舞い」「栄達を求める」など多岐にわたっている。」…


 列挙されている罪の内容は、裏返せば、人間のあるべき望ましい生き方(倫理、道徳、善行)を示唆していて、これが古代エジプトの人々の日常の行動にかなりの影響を及ぼしたことは間違いない。
 
 そういえば、幼児の頃、「嘘をつくと、死後、閻魔さまに舌を抜かれる」と云われて、身が引き締まった覚えがある。(K.N)

誤りがあった場合には、その責は小柳に帰します。