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 ヒエログリフ入門
(古代文字へのご招待)
ツタンカーメン王墓北壁(1)
 さあ、ではいきなりの「実践編」です。

 エジプト好きの皆様なら、必ず一度は写真や実物を見たことがある、ルクソール西岸・王家の谷にあるツタンカーメン王墓玄室の北壁の壁画の文章を読んでみましょう。(さすがにこの墓の壁画の写真は撮れないので、私も写真を持っていませんので線画ですみません) お手元にガイドブックなど、この墓の壁画の写真を用意してご覧いただくとわかりやすいと思います。
 7人の人物が並んでいますね、これは3つの場面に分かれます。左の3人、中央の2人、そして右の2人の3場面です。

 では、一番右側のシーンの解読をしていきましょう。

 オシリス神の姿をした人物(左)の前で、ヒョウの毛皮をまとった人物が何かをしています。手に持っているのは手斧で、これはミイラの口開けの儀式をしているところです。ミイラとなった王があの世でも口をきいたり、呼吸ができたり、食べ物を食べたり、ものが見えたりするように、ミイラのあちこちを手斧で開くような儀式といわれています。

 ミイラとなっているのは、たぶん墓の主であるツタンカーメンであろうと想像がつきます。では、ヒョウの毛皮をまとって儀式をしているのは誰?というと、この壁画の碑文に答えが書かれているのです。

 さあ、では実践ヒエログリフ解読の始まりです。

 まずは写真等を見ながら、ヒエログリフの碑文を書き出してみます。鳥や動物の頭が向いている方向が文章の先頭になります。
 
 その際に注意する点です。ヒエログリフの文章には句読点がありません。そのためどこからどこが1つの文章なのかが最初は非常にわかりづらいです。一度書き写しただけで、きれいに文章が一発で決まることは少なく、きっと何度も何度も書き直しをすることでしょうから、とりあえず自分が辞書を引けるくらいのレベルで写せば十分だと思います。

 今回の碑文では、王と向かい合っている人物の文章の間が空いていますので、どちらの文章が誰が言ったものかの区別は割と簡単につくと思います。
次は辞書を見ながら、文字を翻字に直して、一つ一つの文字のかたまりごとに意味を調べていきます。この段階では辞書が必要になります。

 現在ネット等で入手可能なのは、

「やさしいヒエログリフ講座」 秋山慎一 著 原書房
 文法編と辞典編に分かれていて、初心者の勉強に最適です。現在中古のみ入手可能です。

「ヒエログリフ入門」 吉成薫 著 弥呂久

の2冊です。

 もう少し勉強が進むと、上記の本では語彙が足りなくなるので、

A Conscise dictionary of Middle Egyptian Faulkner 著 Griffith Institute Oxford という英語の辞書があると便利です。

 まずは、あまり文法など考えずに、気楽に訳してみましょう。

 古代エジプトでは名詞が二つ並んでいるときは、後ろから修飾します。形容詞は前の名詞を修飾します。
 この文では、一番最初の「神」+「良い」で「良き神」、「主」+「2国」で「2国(上下エジプト)の主」となります。

 さあ、ツタンカーメンは何と言っているのか?そして右側の謎の人物はだれ?もうお分かりですね。

<ツタンカーメンの上の文章>
 良き神、2国の主、王冠の主、上下エジプト王「ネブケペルウラー」、生命を与えられし者。太陽の息子「トゥトアンクアメン・上エジプトヘリオポリスの支配者」永遠に。

<謎の人物の上の文章>
 良き神、2国の主、儀式を行う主、上下エジプト王「ケペルウラー」、太陽の息子「アイ・神の父」永遠・永久に太陽のような生命を与えられし者。

 そうです、儀式を行っているのは、ツタンカーメンの次に王位についたアイ王です。次の王が前王の口開けの儀式を行っているのが描かれている壁画は他には見つかっていないそうです。(通常は神官や長男が行う)ツタンカーメンが亡くなった時に、すでに次の王が決定していたのでしょう。子供のいない少年王の次の王が、そのおじいさん位の年齢のアイだったのはなぜか?ツタンカーメンの生涯とその死を巡るミステリーはまだまだ謎ですね。

 次回は中央と左手の2つのシーンを読んでいきます。(間違った点がある場合には、その責は小柳に帰します)