前回に引き続きツタンカーメン王墓の壁画を読む「実践編」です。
エジプト好きの皆様なら、必ず一度は写真や実物を見たことがある、ルクソール西岸・王家の谷にあるツタンカーメン王墓玄室の北壁の壁画の文章を読んでみましょう。(さすがにこの墓の壁画の写真は撮れないので、私も写真を持っていませんので線画ですみません) お手元にガイドブックなど、この墓の壁画の写真を用意してご覧いただくとわかりやすいと思います。 |
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今回は、中央と左側のシーンの解読をしていきましょう。
中央のシーンは、ツタンカーメンと女神のシーンです。
いったい何をしているのでしょう。
今回も、まず最初にヒエログリフの碑文を書き出してみます。そして分かるところから辞書を引いて単語の意味を調べていきます。 |
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ここでちょっと文法事項です。
今回の碑文には、「行う」「産む」「与える」などの動詞がたくさん出てきました。
動詞や名詞のあとに付く、や(どちらもs)、(k)は、「接尾代名詞」と呼ばれるものです。
接尾代名詞には、以下のようなものがあります。
主語が「私(男性)」のとき(女性の場合は女性を表す文字、神様が主語の時は神様を表す文字が来ます)
主語が「あなた(男性)」のとき、「あなた(女性)」のとき
主語が「彼」のとき、「彼女」のときや(どちらもあります)
接尾代名詞は、
1.名詞について所有者を表す。(ここでは「あなたの鼻」)
2.動詞文の主語になる。(「彼女が産んだ」「彼女は与える」)
などの働きがあります。
<ツタンカーメンの上の文章>
2国の主、「ネブケペルウラー」、永遠・永久に生命を与えられし者。
<女神上の文章>
ヌウト女神、天の女主人、神々の女主人。彼女は彼女が産んだものに歓迎の挨拶をする。彼女はあなたの鼻に健康と生命を与える。あなたよ生きよ、永遠に。
ツタンカーメンの前にいたのは、天の女神のヌウトでしたね。彼女がツタンカーメンに挨拶をしているシーンです。女神の手のひらの上には「水」を表すギザギザの文字が描かれています。きっとこの挨拶の際には、女神が水をツタンカーメンに振りまいたのでしょう。
現代のアラブ社会でも、遠くから来た客人をもてなすために、まず家に入ると、その両手をバラ水で洗い、外の埃を落とすとともに、バラの香りで客人を歓迎するという習慣があります。砂漠の国で長く続く、古代エジプトからの習慣なのでしょうか?
なお、ヌウト女神の文書において、di=s
snb の部分を、未来・願望を示す「未然形」とみなして、「彼女が健康を与えますように」と読む場合もあります。同様に「歓迎のあいさつを行いますように」と読む場合があります。
(間違った点がある場合には、その責は小柳に帰します) |