前回に引き続きツタンカーメン王墓の壁画を読む「実践編」です。
今回はツタンカーメン王の玄室東壁の葬送のシーンに挑戦です。写真はニコラスリーブス氏の「The Complete Tutankhamun」からです。東壁というのは、玄室を覗き込んだ時に右側の壁です。そりを引く葬列の下あたりに、宝物室へ続く入口がありますので、この壁画を覚えていらっしゃるかたも多くいらっしゃると思います。 |
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左手には、白い鉢巻をまいた12人の人々がいます。後ろから2番目と3番目の人物は頭を丸めているので僧侶のようですね。では残りの人々は誰でしょう?
人々の上の文字は、全て左側を向いていますので、文の始まりは左上となります。では、いつものように書き写して解読をしていってみましょう。 |
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文頭の「ジェドメドウ イン」というのは、「~によって語られた言葉」という意味で、古代エジプトの文章の中ではしばしばみられる表現です。
正面を向いた顔を表す「ヘル」は不定詞や状態形を伴って、「偽動詞構文」という文章を作りますが、ここでは簡単に「~をしているところ」という現在進行形を表していると考えます。
2列目の先頭の「ウシル」は通常はオシリス神のことですが、ここでは神様の決定詞が無いし、次に続くのがツタンカーメン王の名前ですので、ここでは「オシリス神となった」と訳すのが良いのではないかと思います。(古代エジプトでは死者は西方の極楽に迎えられるとオシリス神として永遠の命を得ると考えられていました。そのため、死者を「オシリス某」と呼ぶことが多くされています。)
3列目のツタンカーメンの名前につづく「イウ エム ヘテプ」はやはり「エム」が現在進行形をつくり、「満足しながらやってくる」という意味ですが、ここでは熟語として「つつがなくやって来た」という意味にとらえます。
さあ、あとは文の切れ目に注意をして解読していきましょう。
<葬列の人々の上の文章>
オシリス神となりしエジプト王、2国の主、ネブケペルウラーを西方に引っ張っている王宮の王の友人たちによって語られた言葉。
彼らは(言葉として)言う、ネブケペルウラー、つつがなくやってきた。おお!神、大地の保護!
<右のミイラの上の文章>
良き神、2国の主、ネブケペルウラー、永遠の生命を与えられし者。その名前よ永久に。
ツタンカーメンのミイラを西方に運んで行ったのは、王宮の友人たちだったのですね。19歳くらいの若さで亡くなった王を埋葬の為に運んでいく友人たちの悲しみは深かったことでしょう。最近、ミイラの調査や研究が進んで、ツタンカーメンの死亡原因に関しても従来の撲殺、毒殺等の他に、馬車による事故、生まれつきの病気、マラリア説など様々な説が出されるようになりましたが、まだ死因は確定されていません。
王家の谷西岸のアメンヘテプ3世墓近くに造られ、ツタンカーメンの後継者のアイが埋葬された墓が、もともとツタンカーメンが即位してからすぐ埋葬用に準備させた墓といわれています。その墓の準備が間に合わないため、王家の谷にある(たぶん王家の人々や高官用の)小さな未完成の墓を玄室だけ装飾を完成させ、あわただしくツタンカーメンは埋葬されたと言われています。どのような死因だったにしても、若い王の死は誰もが予想もしなかった突然のものだったのに違いありません。
(間違った点がある場合には、その責は小柳に帰します) |