前回に引き続きツタンカーメン王墓の壁画を読む「実践編」です。
今回はツタンカーメン王の玄室南壁のシーンに挑戦です。南壁は、入口の手前側にあたり、写真の左側のイシス女神や座っている3人の神々のシーンは現在取り壊されてしまっていますし、玄室の見学の際も、手すりから身を乗り出して内側の壁を覗き込むような「不審な動き」をしないとご覧になれないのですが、ニコラスリーブス氏の「The Complete Tutankhamun」という本に、白黒ですが、南壁のほとんど崩されていない状態での写真を発見しましたので、解読に挑戦してみます。 |
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イシス女神の前にある碑文の一部は欠けてしまって写真ではわかりませんが、左右対称を重んじた古代エジプト人のことですので、対する北壁のヌウト女神の碑文と同じことが書かれていたと推測することができます。 |
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イシス女神の文章の中で、目の形をしたir(為す)という動詞の後には、主語となるs(彼女)が省略されていると思われます。
アヌビス神の文章の中で、「西方の前にいるもの(西方の筆頭者)」や「ミイラつくりの場にいるもの」といった表現や、ハトホル女神の文章の中で「西方の土地の支配者」という表現は、修辞(エピセット)と呼ばれるものです。それぞれの神様に、それぞれの修辞があります。 |
<左側の3人の神々の上の文章>
偉大な神、冥界の主。
<イシス女神の前の文章>
イシス女神、天の女主人、彼女は彼女が産んだものに歓迎のあいさつをしている。彼女は健康と生命をあなたの鼻に永遠に与える。
<アヌビス神の前の文章>
アヌビス神、西方の筆頭者、良き神、ミイラつくりの場にいるもの、天の主。
<ツタンカーメンの上の文章>
良き神、ネブケペルウラー、永遠・永久の生命を与えられしもの。
<ハトホル女神の上の文章>
ハトホル女神、天の女主人、西の土地の支配者
人間の姿で表される神様は、その姿だけでどの神様か区別をつけることが難しいため、頭の上にその神様のシンボルとなるものを載せて表現されることが良くあります。
このシーンでも、左から2人目の神様は、頭の上に玉座を載せていますので、イシス女神だと見当をつけることができます。一番右の神様は、囲いのある建物の上に乗った鷹のシンボルを載せていますので、ハトホル女神だと見当をつけることができます。
古代エジプトには数多くの神様がいましたので、間違えないようにシンボルを載せた上に、文章の初めにきちんと神様の名前をもう一度繰り返し書くことが多くなされました。
さあ、次回はツタンカーメン墓の最後となる西の壁です。(間違った点がある場合には、その責は小柳に帰します) |